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札幌高等裁判所 昭和44年(う)48号 判決 1969年5月29日

控訴人 原審検察官

被告人 高田俊雄

検察官 隈井光

主文

原判決を破棄する。

本件を釧路地方裁判所北見支部に差し戻す。

理由

本件控訴の趣意は、釧路地方検察庁北見支部検察官池之内顕二作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は弁護人藤田和夫作成の答弁書記載のとおりであるから、それぞれこれを引用する。

検察官の所論は、鳥獣から摘出した胎児は鳥獣保護及狩猟に関する法律(以下、「本法」という。)二〇条にいう「鳥獣」に該当しないとして、本件公訴事実中六個につき無罪を言い渡した原判決は法令の解釈適用を誤つたものであるというのである。

そこで考えるに本法二〇条において、違法に捕獲した鳥獣の譲渡、譲受け等を禁止するのは、同法一条に同法の目的として掲げられている鳥獣の保護蕃殖を実現するためには、単に鳥獣の捕獲を禁止制限するだけでは十分でなく、右鳥獣の捕獲の周辺にあつて、これを助長し又は誘引する行為をも禁遏する必要があるとの趣旨に基づくものと解されるのである。そして、この趣旨からすれば、本法二〇条にいう「鳥獣」は、全体としての鳥獣のみならず、その一部分をも含むと解するのが相当であり、かつ、原判決のように一部分の場合はそれが全体としての鳥獣と外形上ないし形態上の同一性を保持するときにのみこれに該当すると限定する必要はないというべきである。このように解しても、文理上必ずしも不当な拡張解釈とは認められないのみならず、もし、原判決のように限定的に解するならば、違法に捕獲された鳥獣の頭部又は羽毛等の必要部分のみを譲渡等する行為は、その全体を譲渡等する場合と区別すべき特段の理由もないのに処罰の対象外に置かれることとなり、その不当なること明らかである。原判決は、前記のように解する根拠として、鳥獣の胎児も、本法二〇条の「鳥獣」に該当するとするならば、鳥獣の加工品の場合については同法施行規則四三条の二により規制の対象とされるべきものが制限列挙されていることと首尾一貫しないということをあげている。しかし、加工品については、その範囲が広汎にわたるとともに加工の方法ないし程度によつては原物と一見判別し難い形態のものも生ずるおそれがあるところから、法は一定の加工形態のものに限り処罰の対象としたものと理解されるのであり、これをもつて、このような事情の存しない加工以前の鳥獣について、前記のような限定解釈を導き出す根拠とすることはできないというべきである。

これを要するに、本法二〇条の「鳥獣」から摘出された胎児もまた同条にいう「鳥獣」に含まれると解するのが相当であるから、これと異なる解釈をとり、本件公訴事実中六個については訴因の記載自体構成要件該当性を欠くとして右各事実につき無罪を言い渡した原判決は法令の解釈適用を誤つたものであり、かつ右の誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて、刑事訴訟法三九七条、三八〇条、四〇〇条本文により原判決を破棄したうえ、本件を原裁判所である釧路地方裁判所北見支部に差し戻すべきものとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤勝雄 裁判官 深谷真也 裁判官 小林充)

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